幸福な質問(おーなり由子)の内容、あらすじ 絵本心理学でレビューする
絵本好きの方であれば、おーなり由子さんの名前を見かけたことがあると思います。
素敵な言葉を紡ぐ絵本作家さんのお一人ですね。
おーなり由子さんの絵本は個人的には、子どもたちよりも大人に読んでもらいたい絵本が多いですね。
そんなおーなり由子さんの作品『幸福な質問』を絵本心理学の視点を交えながらレビューしてみます。
絵本心理学はTA心理学の理論もベースにしています。
人の成長に欠かせない考え方を日常的な言葉を使って解説しているTA心理学。
TA心理学はギスギスした人間関係をま~るくしてくれる心理学です。
『幸福な質問』には、どんな知恵、人間関係のヒントが詰まっているでしょう!
目次
「幸福な質問」はおーなり由子さんの作品
『幸福な質問』はおーなり由子さんの作品です。
おーなり由子さんはWikipediaで次のように紹介されています。
おーなり由子(おーなり ゆうこ、1965年2月18日)は、日本の絵本作家、漫画家。大阪府出身。
夫は絵本作家のはたこうしろう。京都精華大学卒。1982年、『りぼんオリジナル』(集英社)秋の号に掲載された「路地裏の風景」で漫画家としてデビュー。1985年に初の短編集「秋のまばたき」に続き計4冊の漫画作品を発表するものの、1992年の「天使のみつけかた」以降は活動の中心を絵本に移す。1999年には北村薫の「月の砂漠をさばさばと」の挿絵を担当した。
さくらももこと交流があり、「ちびまる子ちゃん」のおまけページに度々登場。作詞家としての一面もあり、NHK「おかあさんといっしょ」中の歌「あめふりりんちゃん」「ハオハオ」の作詞も行なっている。
多彩な才能をお持ちです。
ご主人の はたこうしろう さんも素敵な絵本を書いています。
「幸福な質問」の内容・あらすじ(ちょっと、ネタばれ)
出典:
『幸福な質問』
おーなり由子/作
新潮社
表紙はかわいらしいワンちゃんがキスをしているイラストになっていますね。
これを見るだけでちょっと微笑ましい気持ちになれます。
二人で手をつないで歩いていると、その前に一本の花が咲いています。
それを踏まないようにそーっとゆっくりまたいでいく。
言葉のない絵だけでスタートします。
最初のイラストから心の温かさが伝わってきますね。
「ねえもしも」
「もしも、明日の朝起きたら 私がまっ黒なクマになってたら あなた、どうする?」『そりゃあ びっくりするな。「ぼくを食べないで」って言うよ』
『それから 朝ごはん 何が食べたいか きにみきいて、用意してあげる』
『やっぱりハチミツ、好きかな?』
どんな姿になっても、君は君。
何気ない会話の中に、相手を思いやる気持ちが伝わる、愛情あふれる場面です。
「じゃあ 目がさめた時 ちいさい ゾウムシになって 鼻の上のところに とまっていたら?」
『「飛んでみて」って言う』
『費用が半分ですむから 旅行にいこう。 きみ用の かわいいベッドも つくってあげる』
『おしつぶさないように そっと、キスの練習もしないとねえ』
その姿をすぐに受け入れ、どうやって一緒に過ごすかを考えるなんて素敵ですね。
キスの練習がでてくるなんて、思いもしない発想です。
ちょっと恥ずかしくなっちゃいます。
彼から彼女にも質問しています。
『ねえ もしも ぼくが赤ちゃんになったら、どうする?』
「やっぱり お父さんが、必要かしら」
『ぼくは お母さんだけで 立派に育って、みせるさ!』
彼女のちょっと意地悪な回答に、彼の素敵な切り返し。
絵を見ると、ちょっと怒った顔をしています。
これは、すねている感じでしょうか。
『ぼくがきみに もう少しおなかをひっこめて きれい好きになって欲しいって 頼んだら?』
「大丈夫 あなたは そんなこと いわないわ(鼻のあたまにキス)」
これも彼女の素敵な回答ですね。
鼻のあたまにキスしている絵が、彼女のそのままの愛情を伝えています。
ただ、彼の表情はあんまりうれしそうじゃないですね。
もうちょっと違う反応、彼女の怒った反応をを期待していたのかもしれませんね。
キュートで素敵なやりとりが続きます。
「もしも わたしが急に世界一周ひとりで行く!って言ったら どうする?
『いいよ。帰ってきたとき、ぼくが涙で溺れ死んでてもかなわないならね』
「神様が何でも思い通りにしてあげるから私と別れなさいって言ったら?」
『そんな神様、あかんべー するよ。うしろ足で砂をかけてね!』
「なんにも こわくないみたい」
『なんにも こわくないよ』
最後のページの言葉が、心温かく絵本をしめています。
ちいさいふたりに 寛容なかみさまの 祝福が ありますように
この絵本で描かれているのはお互いを信頼しあっている静かな愛です。
出会ったときは燃えるような恋をしてのかもしれません。
今は、そんな時期を昇華していながらも、愛情をきちんと言葉にして伝えあう関係が見えてきます。
私はこの絵本を読んで男女の愛情だけではなく、いろいろな人間関係にも通じる内容だなと感じています。
信頼し合うことが前提に合っても、きちんと言葉でも伝えることは大切だと思いました。
「幸福な質問」をTA心理学で紐解くと・・・
では、これからTA心理学(以下、TAと略します)的に、この絵本を見てみましょう。
絵本は「楽しければいいじゃない!」と、私も思いますが、
私の中のもう一人の私が「なぜ?」を知りたがっています(笑
そこで、TAを使って、その理由を考えてみたいと思います。
絵本をTAで読み解くと、絵本がなぜ楽しいのか、ちょっとだけ理論的に理解できます。
絵本とTA、私の興味を駆り立てる2つを掛け合わせて考えると、
幸せな気持ちをちょっと「盛る」ことができます。
今回はTAの理論の一つ「やりとり」を使ってみてみましょう。
「やりとり」は、ここでは「会話」と思ってもらってよいです。
TA理論の「やりとり」には3種類あります。
①相補交流(平行交流)
②交差交流
③裏面交流
①相補交流(平行交流)
ごく普通の日常的な会話です。
「おはよう」に対し、にっこり笑って『おはよう』と返事をする。
「いい天気ですね」『そうですね』
「今何時?」『10時です』
ストレスのない会話です。
②交差交流
質問に対して、きちんと返事をしないような会話です。
「おはよう」『あの件できた?』
「いい天気ですね」『天気予報は雨ですよ』
「今、何時?」『時間ばっかり気にして!』
えっと思ったり、ちょっとイラっとする会話です。
③裏面交流
表向きの会話の意味とは違う意味を裏で含んでいるような会話です。
店員「この人気商品、最後の一点です」(早く買わないとなくなっちゃいますよ)
お客『買います!』
会社員A「あ~疲れた。今日は終わりにしよう」心の中(ちょっと一杯やろうよ)
会社員B『そうだね。終わりにしよう!』心の中(今日はいっぱい行く感じかなぁ)
直接言葉で伝えないような会話が、良くも悪くも日本には多く見られます。
「幸福な質問」のやりとり
最初のクマになったらの会話では、
彼女が「もしも 私がクマになってたら、どうする?」との質問に対して、
彼は「そりゃあ びっくりするな。」と返事をしています。
これは質問に対してきちんと返事をしているので並行交流ですね。
そのあと彼は、さらに会話を拡げて「ぼくを食べないで」とか
「朝ごはん 何が食べたいかきみに聞いて、用意してあげる」と言っています。
平行交流はお互いの意志が通じ合った会話なので、やりとりは続いていきます。
この会話には、「クマになっても、私のこと愛してくれる」という裏面のメッセージも感じます。
このメッセージに対しては、直接的に「愛している」とは言っていませんが、
朝ごはん君のために用意するよ、という彼の返事に
「どんな姿になっても、きみを愛しているよ」という彼女へのメッセージを感じます。
この二人の絵本の中の会話(言葉)には、読者に対して「愛情」という裏面のメッセージを感じ取ることができます。
そのメッセージは、言葉の表現であったり、一緒に描かれている絵から読み取ることもできます。
ゾウムシの話しは交差交流ですね。
わたしがゾウムシになっていたら?という質問に対し、「飛んでみてって言う」って返事をしています。
会話だけ見ると、トンチンカンで全く質問の返事にはなっていませんね。
ただ、この会話にも、私のこと愛している?という裏面のメッセージを感じ、
それに対して彼は、その後彼のありったけの愛情を彼女に返しています。
かれは、直接的な言葉に対しても、裏面メッセージに対しても言葉で返事をしています。
このようにポジティブな愛情表現を受け取るほうは、この上ない幸福感で包まれますね。
もうひとつ、彼から、「ぼくが赤ちゃんになったらどうする?」との質問に対し、
彼女は「やっぱり お父さんが、必要かしら」と返事をしています。
これも交差交流ですね。
どうするという質問ですから「そんなの困る!」とか「もっといっぱい優しくする」などが直接てきな返事になると思います。
それを「お父さんが必要かしら」と、ちょっとはぐらかすような返事をしています。
なので彼は「お母さんだけで 立派に育ってみせる」とちょっとすねているように会話をつなげています。
彼にとって欲しかった答えが最初に返ってもなかったのでしょう。
私がこの場面で感じたのは、彼は彼女が困っってしまう姿を想像していたのに、はぐらかされてしまい、逆に自分以外の男性は必要かも、と言われてしまったので、ちょっとすねて、君だけ入ればいいんだ!と言っています。
彼女のちょっとした意地悪に、彼が真剣に返事をする姿が、とても微笑ましく感じます。
裏面のメッセージを含むと、ギスギスしたり居心地の悪い関係になりがちです。
でもこの絵本の彼のように、すべてを受け止めて彼女への愛情を100%言葉で表すことができれば、本当の意味での親密な人間関係を作ることができることでしょう。
あとがきは次のように書かれています。
たとえば—–
明日一日で、世界がなくなってしまうのだとしても、
また、なくなってしまわないのだとしても—–笑ったり、嬉しくなったりする事ができる逞しい泉のようなものを、いつも心に見ている事が理想です。
すぐに気むずかしくなったり、恥しくなったりするのですが、願わくば、ま新しい空気にわくわくと包まれるようなひとことを。そして、すぐそばの誰かに魔法をかけられるようなひとことが、伝えられますように。
偶然の出会いに感謝して。
おーなり由子さんの愛情を持って伝える言葉の大切さが伝わってきます。
「幸福な質問」を読み聞かせた時の反応は?
この絵本を大人に読み聞かせる機会がありました。
こんな夫婦関係は理想的です、といった反応や、
結婚する友人にプレゼントしようと思います、
といった感想もいただきました。
なんとなくではなく、いつも愛のある答えをしてくれる人がいれば、
おしゃべりも幸せな時間になるでしょうね。
おとなは、それぞれの人生を20年以上歩んでき経験してきています。
この絵本を聴いてほっこりしたり、中には涙する人もいれば、
絵本の世界の話しで現実世界で受け入れない人もいます。
絵本の感じ方は人それぞれですが、
この絵本全体に流れる「100%の愛情」を相手に表現することは、
多くの人に幸せを伝えいていと感じます。
この絵本が結婚式のプレゼントに贈る方が多いそうですが、なるほど、新しい2人と未来にピッタリです。
絵本の良さ、素晴らしさをTAで解説すると、なるほどと思えることが多々あります。
おーなり由子さんの作品は、特に「やりとり」を楽しく学べる作品が多いので、
別の機会にまたご紹介したいと思います。